後編ということでこの記事では社会保険における「労災保険」と「雇用保険」について解説をしていきます
前編をまだ読まれていない方はそちらからご覧ください!
・社会保険(労災保険、雇用保険)についての初級の知識
労災保険
労災保険(労働者災害補償保険)は、業務災害、通勤災害、複数業務要因災害による労働者のケガ、病気、障害、死亡などについて保険給付を行うものです
厚生労働省が管轄、運営をしており、実際の窓口は各地域の労働基準監督署が行っています
労働者を1人でも使用している会社は強制的に適用事業主となり、正社員のみならず、パートやアルバイトを含むすべての労働者に適用されます
労災保険の災害の種類
業務災害
業務中に発生したケガや病気、障害、死亡などが該当します
業務中とはいってもその範囲は幅広く、残業時間はもちろん、出張中や休憩時間、業務時間外であっても職場の施設や設備が関係するケガなどの場合は業務災害として認められます
通勤災害
通勤中に発生したケガや病気、障害、死亡などが該当します
通勤中に発生したものしか認められていませんので、コンビニなどに寄り道した際に発生したものについては認められない場合があります
一方、「合理的な経路」や「やむを得ない事情」である以下の場合などは認められています
- 道路事情のために迂回した際に発生した
- 出勤前に子供を保育園へ送る際に発生した
- 退勤後に通院する際に発生した
複数業務要因災害
事業主が同一ではない複数の職場で働く従業員が、長時間労働やストレスといった要因により生じた脳疾患、心疾患、精神疾患が該当します
これまでは、1日にAという会社で7時間、Bという会社で5時間働いている人に対して「それぞれでみれば適正な業務時間であり、労災には該当しない!」
とされていたのが、2020年9月の法改正により「合計でみると12時間も働いているから労災と認めよう!」と労働者に寄り添ったものへと変わりました
労災保険の補償の種類
労災保険の補償は全部で8つに分類され、労災に認定されるとその状況に応じた補償が受けられます
療養補償給付
労災によって生じたケガや病気が治癒するまでの医療費が全額支給されます
労災保険で治療を受ける場合、労災病院や労災保険指定医療機関が定められています
そのため初めからこちらを受診すれば問題ありませんが、近くに労災病院がない場合等で、別の病院にかかった場合、一度全額を自己負担し、後から支給を受けるということになります
休業補償給付
ケガや病気によって休業している期間、賃金を受け取ることができない場合に支給されます
1日につき、給付基礎日額相当額(休業直前3カ月分の賃金総額を日割り計算したもの)の6割を休業した日数分、休業4日目から受け取ることができます
これと合わせ、休業特別給付金といわれる社会復帰支援のための手当が、給付基礎日額相当額の2割が支給されるため、全部で8割が支給されることになります
障害補償給付
労災によるケガや病気が原因で、身体に1級~7級の障害が残った場合に障害補償年金が支給されます
8級~14級の障害が残った場合には障害補償一時金が支給されます
傷病補償年金
労災によるケガや病気の治療を開始してから1年6カ月が経過しても完治していない場合、その日以後支給されます
1級から3級までの傷病等級に応じて、給付内容は変わります
介護保障給付
障害補償年金または傷病補償年金の受給者のうち、障害等級及び傷病等級が1級か2級(精神神経、胸腹部臓器の障害)に該当している方が、実際に介護を受けている場合に支給されます
入院中や障害者支援施設、養護老人ホーム等に入所して介護サービスを受けている場合には支給されません
遺族補償給付
労災によって当人が死亡した場合にその遺族へ遺族補償年金が支給されます
支給される条件および順番は下図のとおりです
第1 | 妻 | 要件なし |
夫 | 60歳以上か5級以上の身体障害 | |
第2 | 子 | 18歳到達年度末までか5級以上の身体障害 |
第3 | 父母 | 60歳以上か5級以上の身体障害 |
第4 | 孫 | 18歳到達年度末までか5級以上の身体障害 |
第5 | 祖父母 | 60歳以上か5級以上の身体障害 |
第6 | 兄弟姉妹 | 18歳到達年度末までか5級以上の身体障害 |
第7 | 夫 | 55歳以上60歳未満 |
第8 | 父母 | 55歳以上60歳未満 |
第9 | 祖父母 | 55歳以上60歳未満 |
第10 | 兄弟姉妹 | 55歳以上60歳未満 |
遺族補償年金を受け取る遺族がいない場合や遺族がその権利を失った場合は、遺族補償一時金が以下の順番に支給されます
①配偶者
②死亡した労働者によって生計を維持されていた子、父母、孫、祖父母
③その他の子、父母、孫、祖父母
④兄弟姉妹
葬祭料
労災により死亡した労働者の葬儀を行う際に、葬儀を行う人に対して支給されます
315,000円+給付基礎日額相当額の30日分が支給されますが、これが給付基礎日額相当額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額相当額の60日分が支給額となります
二次健康診断等給付
職場で実施される健康診断において、以下の要件に該当する場合に、脳血管や心臓の状態を確認するための二次健康診断や、脳疾患、心臓疾患の発症を予防するための特定保健指導を年1回無料で受けることができます
- 血圧検査、血中脂質検査、血糖検査、腹囲及びBMIのすべてに異常がある
- 脳疾患、心臓疾患の症状がない
- 労災保険の特別加入者ではない
労災保険の保険料
労災保険の保険料は全額事業主負担となっています
原則、賃金総額×保険料率によって算出されますが、保険料率は業種によって異なります(業種によって危険度も異なるため)
雇用保険
雇用保険は労働者が失業した時の給付や、再就職を支援するための保険です
原則として、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上連続して雇用される見込みである場合に被保険者となります
雇用保険の給付の種類
求職者給付
求職者給付の中にも、基本手当(失業手当)や傷病手当、高齢者求職者給付金などさまざまな種類がありますが、求職者給付の主要である基本手当と傷病手当について解説します
基本手当(失業手当)
定年退職や解雇、自己退職などにより離職した際に支給され、安定して再就職できるように支援するもので、いわゆる失業手当と呼ばれているものになります
受給するには以下の要件を満たす必要があります
①離職日以前の2年間に、被保険者期間が通算12カ月以上あること
離職の理由が会社側にある場合や育児、結婚、傷病など正当な理由がある場合は、「離職日以前の1年間に、被保険者期間が通算6カ月以上あること」でも可能です
②失業状態にあり、ハローワーク(公共職業安定所)で求職の申込中であること
以上2つの要件を満たしている場合に、給付金が離職前6カ月の賃金の5割~8割支給されます(金額は離職の理由により異なる)
傷病手当
ハローワークで求職の申込みをした後に、ケガや病気により15日以上継続して働くことができなくなった場合に支給されます
離職前6カ月の賃金の6割~8割が支給されます
就職促進給付
基本手当を受給している人が早期に再就職し、仕事を継続できた場合に支給されるものです
名前のとおり、再就職への意欲を促進する目的があります
就職促進給付にも複数の種類がありますので、いくつか紹介します
再就職手当
再就職先が決まった時点において、基本手当の支給日数が3分の1以上残っている場合に支給されます
給付額は基本手当日額×支給残日数×給付率で求めることができます
給付率は基本手当の支給日数が3分の1以上残っている場合は60%、3分の2以上残っている場合は70%となります
就業促進定着手当
再就職手当を受けた人のうち再就職先で半年以上働いたが、再就職先での給与が前の職場よりも少なくなったという場合に支給されます
給付額は(離職前の賃金日額-再就職後6カ月間の賃金日額)×支払基礎日数で求めることができます
しかし、就業促進定着手当には上限があり、上限額は基本手当日額×支給残日数×給付率で求めることができます
給付率は再就職手当の給付率が60%の場合は40%、70%の場合は30%となります
教育訓練給付
厚生労働大臣が指定した教育訓練講座を修了した場合に、その入学費や授業料などの一部が支給されるものです
一般教育訓練給付金
教育訓練給付金の最も代表的なもので、簿記やTOEICなどが該当します
教育訓練経費の20%(上限10万円)が以下の条件を満たしている場合に支給されます
- 雇用保険の被保険者期間が3年以上あること(初めて教育訓練給付金を受給される場合は被保険者期間1年で可)
- 厚生労働大臣の定める講座を修了すること
- 教育訓練給付金を受けたことがある場合は前回の支給から3年以上経過していること
特定一般教育訓練給付金
より再就職しやすいよう、高度な資格取得を支援することを目的として支給されます
税理士や行政書士、司法書士などが該当します
支給条件は一般教育訓練給付金と同じで、経費の40%(上限20万円)が支給されます
専門実践教育訓練給付金
中長期的なキャリア形成を目的として支給されます
美容師や看護師、保育士などが該当します
支給条件は一般教育訓練給付金と同じで、経費の50%が支給されます
支給額は1年間で40万円まで(3年間で120万円まで)となっていますが、資格取得後1年以内に就職すると20%が上乗せして支給され、70%(限度額224万円)の支給が受けられます
雇用継続給付
労働者が働き続けられるよう支援を目的として支給されます
高年齢雇用継続基本給付金
60歳以後に再雇用される高年齢者の就業意欲を促進するための制度で、以下の人に対して支給されます
- 雇用保険の被保険者期間が5年以上あること
- 60歳以上65歳未満であること
- 60歳以後の賃金が60歳になった時点で受け取っていた額の75%未満であること
育児休業給付金
雇用保険の被保険者が育児休業中に、以下の条件を満たす場合に支給されます(同一の子に対して夫婦それぞれ受給可)
- 雇用保険の被保険者であること
- 過去2年のうち就業日が11日以上ある月が12カ月あること
- 休業中の賃金が休業前の賃金の80%未満であること
- 育児休業中の就業日数が月10日以下であること
支給額は育児休業に入って6カ月までは給与日額の67%(上限305,319円)で、6カ月経過後は給与日額の50%(上限227,850円)となっています【2023年度】
介護休業給付金
家族の介護をするための休業中に、以下の条件を満たす場合に給料の67%が家族1人あたり最大93日まで、最大3回までの分割で支給されます
- 雇用保険の被保険者であること
- 配偶者、子、父母(配偶者の父母も含む)、子、祖父母、兄弟姉妹、孫の介護であること
- 病気やケガなどにより、2週間以上の常時介護を必要とする状態にあること
- 休業後に職場復帰する予定であること(退職予定である場合は不可)
支給額は賃金×支給日数(最大93日)×67%で求めることができます
似たものに介護休暇がありますが、取得可能日数や給付金などが異なり、介護休暇の方がより手軽といったイメージです
まとめ
いかかでしたでしょうか?
社会保険についての後編ということで、労働保険といわれる「労災保険」と「雇用保険」について解説してきました
医療保険などと異なり、だれもが当てはまる社会保険ではないため、聞き馴染みのない内容ばかりですよね・・・
しかし、こういったものがあるということを知っておくだけで、いざというときの助けとなりますのでしっかりと学んでおきましょう
最後まで読んでいただきありがとうございましたー!